Candy Suger

 -Telephone--

 電話を切ってから、ずっと泣いていた。
 今まで、サトシと旅してきた事を思い出しながら。

 ピンチになった時もあった。
 楽しく笑いながら過ごしてきた日もあった。
 …喧嘩した時もあった。

 それが、全部昔のことだなんて思えなかった…。

 RRRRRRRR…

 静かなジムの中に電話の音が鳴り響く。
 …誰だろ?ケンジかな?

 私は涙を拭いて電話に出た。

 「もしもし?」
 「あ、もしもし!オレサトシ!カスミ…だよな?」

 電話越しに聴こえるのは元気な少年の声。
 そして画面上に映ったのは私の大好きな人。
 …サトシからの電話だった。

 「え?サトシ?私、用事があるって…」

 私は涙が出てきてしまった。

 「あのなぁ、そのくらいの言い訳ぐらい…って泣くなよ!!」
 「ごめん…嬉しくって…。」

 涙を流しながら話しを続ける。

 「サトシ…。」
 「?何だ、カスミ?」
 「……。」

 好きだよ。といおうと思ったけど。
 言えない。振られるのが怖い。

 「な、何でもないのよ!何でも!」
 「カスミ…焦ってるの丸解りだぜ?」
 「え!?あ、あははwな、何でよ!?」

 今まで姉達だって私が焦ったり嘘ついたのには気づかなかった。
 なのに何でサトシには解ったんだろう…・

 「何でって…オレがカスミの事が好きだからだよ。」

 一瞬びっくりしすぎて呼吸が止まった。

 「え、えええぇぇぇええぇぇ!?嘘!!」
 「な、何だよ!叫ぶなよ!!」
 「ずっと…片思いだと思ってたのに…。」
 「え、良く聞こえない…」

 もう悲しいんだか、嬉しいんだか解らなくなってきた。
 この涙はいったいどっちの涙?

 「私…も…サトシの事が…す、好きなの…。」
 「カスミ…泣くなよ。」

 電話の前であたふたするサトシが可愛かった。
 そしてサトシの向こうで陰に隠れて泣きながら
 こっちを見ている少女の存在に気づいた。

 ハルカ…だった…。

 「ごめ…んね…両思いでも会えないって…辛くて…」
 「オレだって…辛いよ?だから、一緒じゃん!てなw」

 笑ってるサトシがかっこよかった。

 「ね、サトシ。あんまり電話が長いとお金かかるんじゃない?」
 「へ?あ、そーいえば料金がめちゃくちゃ高いよ;」
 「だから…また今度にしよ?…それに…」

 私は後ろで泣いているハルカに目をやりながら、

 「ハルカが可哀想。だから、今日はハルカのところに…。」

 と言った。

 「ハルカ?何で?」
 「もう、あんたってばハルカの気持ちにも気づいてないわけ!?」
 「へ、気持ちって…」
 「この鈍感!じゃ、もう切るからはやくハルカのとこいってあげなさい!!」
 「お、おい!カス…」

 ガチャンと音を立てて切った。
 本当はもう少し、もう少しだけ話していたかったけど…。

 「サトシの気持ちに気づかなかった私も鈍感だなぁ…;」

 でも。画面に映ったハルカの事が気がかりだった。
 きっと私たちの会話を聞いていたんだろう。
 そして私たちが両思いだと知った時に泣き出したんだろう。

 「私がハルカの立場だったら同じことしてるなぁ…。」

 そう思うと涙が出てきた。

 「ごめんねぇ…ハルカぁ…。」

 優しい涙が頬を伝った。